大判例

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名古屋高等裁判所 昭和31年(う)861号・昭31年(う)860号 判決

原判決は被告人両名は素焼こんろを使用して煮炊の仕事をする場合該こんろ内の炭火による過熱の為その下部床板が燻焦して発火するかも判らないからその危険のなきか否かを十分調査し過熱発火の危険がないことを確認した上こんろを使用すべきであつたに拘らず不注意にも何等の調査を為さず被告人両名は意思を連絡して本件こんろを使用し完全に消火する措置を採らないで皈宅したのである。即ち原判決は被告人両名が土木出張所分室に於て素焼こんろを使用して長時間に亘り煮炊の仕事をする場合には素焼こんろ内の炭火による過熱の為その下部床板が燻焦し発火の危険性があることを慮り斯る過熱発火の危険の発生を未然に防止しなければならない義務あることを判示し被告人等は不注意にもこの義務を怠り薄茶色及黒色素焼こんろ二個を事務室内に持込み之を床板上において炭火を入れその過熱状態に思を致さず之を使用したが消火其の他何等の処置を為さずして皈宅した点に於て刑法第百十六条第一項に所謂火を失したものと認めたものであることは原判文上明らかである。而して原判決の確定したところに依れば被告人両名は共同して素焼こんろ二個を床板の上におき之を使用して煮炊を為したものであり過熱発火を防止する措置についても被告人等は共に右措置を為さずして皈宅したと謂ふのであるから此の点に於いて被告人両名の内に共犯関係の成立を認めるのを相当とするのである。されば原判決が之に対し刑法第六十条を適用したのは正当であつて所論の如き法令の適用に誤はなく論旨は理由がない。

同事実誤認の点について

原判決が本件火災の原因は被告人両名が原判示事務室に於て素焼こんろ二個に炭火を入れ之を使用して煮炊の仕事をする場合には該炭火による過熱の為その敷台たるラワン材が燻焦して発火する危険があるのに使用後消火したことを確認しないで皈宅した為該炭火の過熱から敷台が燻焦して発火し原判示建物を焼毀するに至つたものと認定したこと、而して原判決挙示の証拠中発火原因に関する資料として之を認むべき直接証拠の存在しないことは所論の通りである。然し乍ら事実の認定は必しも直接証拠によることを必要とせず証拠によつて認めた間接事実に基き条理経験の法則に従つて要証事実を推認することを妨げないものであるところ所論は被告人等は当日素焼こんろに木炭を注ぎ足し之を事務室内のラワン材敷台の上において使用を始めて以後連続給炭して強い火力を保ち続けた事実はなく同二時間後から給炭していないので敷台が過熱発火することはない旨主張するので考察するに原判決挙示の各証拠の内容を仔細に検討し更に原審に於ける証拠調の結果を参酌すれば本件火災の発火箇所は原判示事務室であつて其の他の箇所から発火したものでないこと、被告人等が薄茶色及黒色の素焼こんろ二個を右事務室内に持込み之をラワン材の敷台の上において使用し移動させなかつたこと、被告人都築さかをに於て黒色こんろの使用後その炭火全部を薄茶色のこんろに移したこと、当夜はこんろに普段より多量の炭火を使用したので灰も多量に残り火種も二、三見えていたが被告人等は灰を捌き残火の有無を確め消火等の措置をとらないで皈宅し間もなく本件出火を見るに至つたこと、素焼こんろをラワン材敷台の上にて使用した場合にはこんろ底の温度が上昇しラワン材からタールが滲出して表面が黒変し木材質が燻焦して発火の原因となること、前記素焼こんろの傍には衝立があり之にワイシヤツ及雨合羽等が掛つて近くに延焼し易い物質があつたこと等の諸般の事実を認めることが出来るので此れ等の情況証拠を基礎として事の真相を合理的に判断すれば、本件発火の原因は被告人等が原判示事務室に素焼こんろ二個を持込み之をラワン材敷台の上に置き普段より多量に炭火を入れて連続使用する場合には右ラワン材が過熱の為発火する危険があるのに右使用後炭火が完全に消火したことを確認しないで皈宅した為前示こんろの炭火からラワン材敷台が過熱して発火し附近の衝立に燃え移り順次事務室から原判示建物に燃え拡がつたものであると認めるのを相当とする。而して発火原因に付之と認定を同じくする原判示事実は総て原判決挙示の各証拠により之を肯認するに十分であつて、記録を精査するも右認定を左右するに足る証拠はなく原判決の事実認定には毫も条理と経験の法則に違反する点はなく所論の如き事実誤認の違法はない。論旨は理由がない。

(裁判長判事 影山正雄 判事 石田恵一 判事 水島亀松)

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